フランスに学ぶアートな暮らし−7〜杉浦岳史さん(パリ在住ライター)
芸術の都、パリの人々はどんな風にアートを楽しんでいるのでしょうか?
今回はMONUMENTA(モニュメンタ)2011についてです。
モニュメンタ 2011
なにかと話題の多いパリのグラン・パレですが、いまとんでもないオブジェが出現しています。5月11日から開催の展覧会「MONUMENTA(モニュメンタ)2011」。2007年、ドイツ人の美術家アンゼルム・キーファーを皮切りに毎年一人のアーティストが選ばれ、13,500㎡という壮大なグラン・パレのスペースをどう使うかという問いに挑んできました。昨年のフランス人作家クリスチャン・ボルタンスキーにつづいて今年選ばれたのは、インド出身のイギリス人で、いま世界で最も注目されている現代彫刻家の一人、アニッシュ・カプーア(Anish Kapoor)です。彼は、湾曲したオブジェやそのくぼみに、果てしなくつづくような宇宙的な広がりを表現したり、展示空間さえ異質なものに変えてしまうような未体験の驚きを感じさせる独特の作品で知られています。シカゴのミレニアム・パークにおかれた「クラウド・ゲート」のように超巨大なモニュメントアートも数多い、まさにこの「MONUMENTA」にはうってつけの作家で、彼が何を見せてくれるのか期待が高まっていました。
常識を超えるアート
出かけたのは、展覧会初日の朝。ガラス貼りのグラン・パレですが、エントランスからは作品の姿がまったく見えません。中に入って黒い回転扉をくぐると、現れたのは真っ赤な洞窟のような大空間。まずは巨大なオブジェの「内側」へと招かれたわけです。内部を覆う曲面の一部は管のように奥へと広がり、それは宇宙的であり、何か大きな生き物の体内のようでもあり、ときおり身体や心が引き込まれそうになる感覚を抱かせます。スタッフの説明によればオブジェは光を通す樹脂でできているとのことで、上を見るとグラン・パレの骨組みが透けて、これがまた美しいコントラスト。さらに作品の外側へと導かれて、驚きました。なんという大きさ、存在感でしょう。グラン・パレのNef(ネフ=身廊)と呼ばれるホールいっぱいに、正体不明の巨大生物のように横たわるモニュメント。内、外の表面の赤は「カプーア・レッド」といわれるようなこの作家の特徴的な色づかいですが、そのなんとも形容しがたい深みのある色が作品のオーラを高めているように見えました。
アート体験を楽しむ子ども達
絵画やブロンズの彫刻とはちがいますが、これもアート。形や色だけでなく、作品とグラン・パレという建築との関係に焦点をあて、さらに観客に特別な体験をも提供してくれるこの作品の奥行きの深さに、現代アートの多様性と可能性を感じました。またとないアート体験の機会に、多くの子どもたちや中・高校生なども授業の一環として訪れています。若い脳はこうした作品を見て、何を考えるのでしょうか。
この展覧会は6月23日まで開催。ご旅行の予定があれば、ぜひお立ち寄りください。5月14日にはフランスの多くの美術館が無料で開放される毎年恒例の「La Nuit des musées」が開催されましたが、この展覧会も長蛇の列がグラン・パレを取り巻いていました。フランス人も無料が大好きです。
写真上 作品の内部は真っ赤に染まり、宇宙的な洞窟のよう。
写真上から 奥へ広がるくぼみに、身体を吸い込まれるような錯覚におちいる。/グラン・パレのホールいっぱいに広がる巨大なモニュメント。/ただただ圧倒的な存在感。/子どもたちも世界的アートをじかに体験。
杉浦岳史さん
東京で広告ライター、ディレクターとして活動ののち2009年に渡仏。現在パリの高等学院IESAに在籍し、美術史、アートマネジメントやアートマーケットを学びつつ、執筆活動をつづける。
http://ameblo.jp/sucreweb/