フランスに学ぶアートな暮らし-10〜杉浦岳史さん(パリ在住ライター)
芸術の都、パリの人々はどんな風にアートを楽しんでいるのでしょうか?
今回は夜ふかしアートイベントについてです。
パリの夜ふかしアートイベント「Nuit Blanche ニュイ・ブランシュ」
長かった夏の昼に別れをつげて、人々がまた夜の美しさに気づきはじめる季節。それは、パリのアートシーズンの幕開けでもあります。世界が「芸術の都」と認めるだけあって、パリ市もアート振興には積極的ですが、10月第一土曜日は、その市が主催するイベント「Nuit Blanche」の日。今年で10回目を迎えます。Nuit blancheは、「白夜」あるいは「徹夜する」などの意味ですが、その名の通り夜通し朝まで、有数のアーティストによるインスタレーションやパフォーマンス、フィルムイベントなど、パリのあちらこちらでアートイベントを開催。週末なら午前2時くらいまで運転しているメトロも、この夜は一部の路線で終夜営業。まさに「パリ市公認」の夜ふかしイベントなわけです。
眠らない夜のはじまり
メインエリアになるパリ市役所周辺は、夜7時くらいからお祭りのような人だかり。観光客や騒ぎたいだけの若者たちも入り交じって、眠らない夜がスタートします。
市役所内では、イギリスの映像作家アイザック・ジュリアンの「The Leopard」を上映。1800年代の荘厳な建築様式のなか投影される大画面の映像は、それだけで幻想的。30分ほど待って入った観客は真剣に見入ります。
近くのポンピドゥーセンターは、一晩中常設コレクションを無料公開。折しも、9月23日から10月3日まで日本人作家のグラフィック作品を集めた<Tokyo Graphic Passport>が開催中で、Nuit Blancheの夜に合わせてDJ HIFANAを招いたライブを敢行。スタートの夜10時を前に、整理券待ちの列がずらりとできていました。
次の目的地は、ユダヤ歴史博物館。ここではポーランドの作家ミロスワフ・バウカがインスタレーション作品を披露。故国の戦争の傷跡、生と死をテーマにしたメッセージを届けるアーティストが選んだのは、風でゆっくりと回転する68本のアクリルガラスが描きだす光のアート。温かな色の光が天から降ってくるかのようなシーンに、大人も子どもも歓喜の声をあげます。
夜だからこそのアート
このほか、パリ北部のモンマルトルやピガール界隈でもたくさんのイベント。光と闇のコントラストを活かしたり、蝋燭やプロジェクターを使ったり、時には驚かせるような、あるいは静かに時間を感じるような、夜ならではのいろいろな試みがアート好きのパリ市民の心を惹きつけます。6月の夏至に夜10時頃だった日没がいまはもう7時すぎ。夏の終わりにがっかりしながらも、夜の光に違う楽しみを見いだす・・・そんな効果もこのNuit Blancheにはあるのかも知れません。
杉浦岳史さん
東京で広告ライター、ディレクターとして活動ののち2009年に渡仏。現在パリの高等学院IESAに在籍し、美術史、アートマネジメントやアートマーケットを学びつつ、執筆活動をつづける。
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