フランスに学ぶアートな暮らし−8〜杉浦岳史さん(パリ在住ライター)
芸術の都、パリの人々はどんな風にアートを楽しんでいるのでしょうか?
今回はフランス人にとってのアートについてです。
フランス人にとってのアート
フランス人は住まいに絵や写真、オブジェを飾るのが好きで、コレクターでなくても自分らしく、センスよくアートのある生活を楽しんでいます。何もないと、落ち着かなかったり、物足りない気分になってしまうとか。
以前、友人のアパルトマンを訪ねたとき、彼女がとてもすまなそうな顔をして玄関先でこうささやきました。「ごめん、うち引っ越ししたばかりでまだ絵を掛けてないの・・・」。彼女にとってアートは住まいづくりの画竜点睛。未完成なままに家を見せるのは気が引けたようです。
アートな暮らしのコツ
そんな住まいの彩り方は十人十色。今回訪れたアパルトマンの主は、弟と先妻が画家、娘がソルボンヌ大学で美術史を専攻していたという芸術一家。2年前に急逝したというその弟の作品をはじめ、オープンアトリエで知り合い友人になったアーティストの絵、若い頃からコレクションしてきたお気に入りのオブジェまで、部屋のなかは彼にとっての大切な思い出の宝物が所狭しとならんでいます。
オープンアトリエ(Portes ouvertes – Ateliers d’artiste)は、パリの中でもアーティストのアトリエが多い14区や20区のベルヴィルなどでひらかれるイベントで、画家、造形作家、写真家が自分の仕事場を開放。参加者がいくつものアトリエを自由に訪ね歩き、アーティストと話したり、作品を見たり、さらに購入することもできるというもの。こういう機会に気に入ったアーティストと仲良くなり、その作品を家に飾るというのもパリジャン・パリジェンヌらしいライフスタイルです。
一見乱雑そうでいて何となく統一感があるのは、少しずつ時間をかけて積み重ねてきた自身の好みや生き方が映されているからでしょうか。
彼が話す「アートと暮らすコツ」のひとつは、色でまとめるということ。部屋のコーナーごとに「赤のスペース」「黒のスペース」とカラーを決めて、置いていく。こうすると内容がバラエティに富んでいても雑にならず、空間に存在感が生まれてきます。
もうひとつ訪れたアパルトマンは、海と音楽をこよなく愛するブルターニュ地方出身の家族。船のラダー、ヨットの写真・・・そしてどこか海を見つめる灯台のような陶器のオブジェは、陶芸のアーティストとして活躍するこの一家の奥さまの作品。ここは海というテーマが、部屋の彩りに統一感を加えています。
ホームパーティなど、人を招いて部屋を見せる機会も多いせいか、フランス人はやはり空間に自分を表現するのが上手。そのこだわりには学ぶべきところが多そうです。
杉浦岳史さん
東京で広告ライター、ディレクターとして活動ののち2009年に渡仏。現在パリの高等学院IESAに在籍し、美術史、アートマネジメントやアートマーケットを学びつつ、執筆活動をつづける。
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